
12世紀後半から13世紀後半にかけて欧州各地で花開いたゴシック様式の大聖堂。
その特徴は、「広い、大きい、ゴージャス!」。
ロマネスクの聖堂が辺鄙な地に建てられることが多かったのに対し、ゴシックの大聖堂は都市の繁栄を象徴するように街なかに屹立(きつりつ)する。
正式名「ノートル=ダム(聖母)大聖堂」があるのも古都シャルトルで、パリから電車で約1時間という近さ。
大聖堂の西正面の双塔は高さ100メートルを超え、壁面は美麗なステンドガラスの逸品で飾られている。

これぞゴシックの見本と言えよう。
そもそも大聖堂の立つ丘は、古くはガリア人の巡礼の地だったという。
地下の聖なる泉を求めて人々がつどったその「聖地」に、キリスト教会が創設されたのは、4世紀のこと。
遅くとも8世紀までに聖母マリアに捧げられる教会となり、876年にはシャルルマーニュの孫・シャルル2世が聖遺物「聖母の衣」を献納(けんのう)することで、あらためてありがたい巡礼地として多くの信者を集めることになった。
今の建物は5代目。
1194年の大火でそれまでの聖堂の大半が焼けた後、1250年ごろまでに再建されたものだ。
西正面扉口の彫刻群も、12世紀半ばのものが火災をまぬがれ、ロマネスクからゴシックへと向かう過渡期の貴重な作例として生き延びた。
いざ堂内に足を踏み入れると、意外に暗いというのが第一印象。

石造りの建物に時を封じ込めたような、独特の匂いも忘れられない。
身廊(しんろう)から内陣に向けて進むにつれ、暗さに目が徐々に慣れてゆき、堂内の桁外れなスケールに驚く。
そして、林立する柱による、神のもとに昇がごとき上昇感。
実際は太い柱なのに、細い柱を束ねているように見せることで軽快さを演出するのは、ゴシックの得意技だ。
12〜13世紀のステンドグラスが152枚(総面積約2000平方メートル!)も残っているのも、シャルトルの特徴。
というか、ゴシック全盛期に作られた大聖堂で、建築から彫刻、ステンドグラスまで、ほぼ丸ごと残っているのは、ここシャルトルだけなのだ。
そんな唯一無二の大聖堂ではあるのだが、せっかくシャルトルを訪れるなら、古都を気ままに散策する時間も、とっておきたい。
古い民家や坂道の石段、小川ぞいの道……そうしたなにげない風景が、大聖堂の威容とともに、懐かしさとして心に残る。
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